モーニングジュエリー(喪の装飾品)の意味 ― ヴィクトリア朝における死と記憶の文化

ヴィクトリア朝のモーニングジュエリー。黒いジェット製のクロスペンダント、月桂樹のモチーフを刻んだロケット、祈る人物を描いたブローチ、故人の髪の毛を編み込んだヘアジュエリー、花を連ねた黒いブレスレットなどがアンティーク調の背景に並べられている。
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目次

モーニングジュエリーとは

ヴィクトリア朝のモーニングジュエリー。黒いジェット製のクロスペンダント、月桂樹のモチーフを刻んだロケット、祈る人物を描いたブローチ、故人の髪の毛を編み込んだヘアジュエリー、花を連ねた黒いブレスレットなどがアンティーク調の背景に並べられている。

モーニングジュエリー(Mourning Jewelry)は、死者を追悼する目的で身につけられた装飾品を指します。

特に19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝(1837–1901年)において広く普及しました。

これらの装飾品は、単なる装身具ではなく、社会的儀礼、宗教的観念、そして個人的な記憶を体現するものであった。本稿では、モーニングジュエリーの意味を、素材・象徴・社会的背景に基づいて整理します。

ヴィクトリア朝における喪の慣習

ヴィクトリア朝社会において、死と喪は日常生活の一部であった。

近年では当時の社会状況を扱った創作物も増えてきましたね。

当時は感染症や出産による死亡率が高く、多くの家庭が死別を経験していた。

喪服と喪の段階

19世紀のイギリスでは、喪服(mourning dress)が厳格に規定されていた。

服装の色や素材は、喪に服する期間や親密度によって異なった。

たとえば、最初の深い喪(deep mourning)では黒一色が着用され、時間が経過するにつれて灰色や紫といった色を取り入れる「ハーフ・モーニング」へと移行した。

ヴィクトリア女王の影響

1861年にアルバート公が死去した後、ヴィクトリア女王自身が長期にわたり喪に服したことは社会全体に影響を与えた。女王の姿勢は国民に模倣され、喪服とともにモーニングジュエリーが広く普及する要因となりました。

モーニングジュエリーの素材

モーニングジュエリーは、死と喪にふさわしい素材が用いられた。

ジェット(Jet)

最も代表的な素材は「ジェット」と呼ばれる化石化した木材である。イギリス北東部ヨークシャー州のウィットビー(Whitby)は19世紀におけるジェットの主要産地で、黒色の光沢を持ち、細工がしやすい性質があった。ヴィクトリア女王自身もジェット製の装飾品を愛用したことが記録されている。

黒エナメルとオニキス

銀や金に黒エナメルを施した装飾品も多く用いられた。黒は喪の象徴であり、エナメル技術はモチーフを際立たせるのに適していた。

また、黒色の半貴石であるオニキスや、硬質ゴムを加工したヴァルカナイト(vulcanite)も19世紀後半に使われた。

銀と金

中産階級においては銀が喪の装飾品に選ばれることも多かった。控えめでありながら耐久性がある素材として、ロケットやブローチのフレームに用いられた。

また上流階級では金も用いられたが、黒エナメルやジェットとの組み合わせで「喪」を表現した。

3. モチーフと象徴

モーニングジュエリーには、死者の追悼や永遠性を表すモチーフが多く用いられた。

ヘアジュエリー

もっとも特徴的な形式のひとつが「ヘアジュエリー」である。故人の髪の毛を編み込んだり、ロケットに収めたりすることで、遺された家族が身近に感じられる記念品となった。

大英博物館やヴィクトリア&アルバート博物館のコレクションにも、髪を織り込んだブレスレットやリングが多数残されている。

モチーフの象徴性

  • 柳の木(willow):悲しみ、追悼
  • 壺(urn):死者の記憶、遺骨容器の象徴
  • 十字架:キリスト教的救済
  • 鳩や天使:魂の安息
  • 花(スミレ、スズランなど):謙遜、死後の純潔

これらは絵画や彫刻と同様に、装飾品においても象徴的に用いられた。

社会的役割

モーニングジュエリーは、単なる個人の感情表現にとどまらず、社会的役割を持っていた。

身分と規範の表現

喪の装飾品を着用することは、故人への敬意を示すと同時に、社会的規範に従っていることを示す行為でもあった。

特に上流・中産階級では、葬儀や社交の場において適切なモーニングジュエリーを着けることが求められた。

商業的発展

19世紀後半には、ロンドンやバーミンガムを中心にモーニングジュエリー専門の商店が存在した。

新聞広告やカタログでは、ジェット製ブローチやヘアジュエリーの注文が広く受け付けられていた。

これにより、喪の装飾品は一大産業として成立していたことがわかる。

今日における意義

今日、モーニングジュエリーはアンティーク市場において高い関心を集めている。

これらは19世紀社会における「死の文化」を物質的に伝える資料であり、芸術史・社会史の観点から研究対象となっている。

特に博物館コレクションにおけるモーニングジュエリーは、当時の人々が死とどう向き合い、どのように記憶を形に残したかを示す重要な手がかりとなる。

結論

モーニングジュエリーは、19世紀ヴィクトリア朝における死と追悼の文化を象徴する装飾品である。

  • 素材:ジェット、黒エナメル、オニキス、銀、金
  • モチーフ:柳、壺、十字架、花、故人の髪の毛
  • 社会的役割:故人への敬意、社会的規範、商業化

これらの要素は、当時の人々の死生観と社会構造を反映しており、モーニングジュエリーは単なる装身具ではなく、「記憶を形に残す手段」として機能していたことが理解できます。

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ヴィクトリア朝のモーニングジュエリー。黒いジェット製のクロスペンダント、月桂樹のモチーフを刻んだロケット、祈る人物を描いたブローチ、故人の髪の毛を編み込んだヘアジュエリー、花を連ねた黒いブレスレットなどがアンティーク調の背景に並べられている。

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この記事を書いた人

上谷 俊介のアバター 上谷 俊介 彫金師

彫金萬代表、彫金ブランド「IMULTA」を運営しています。

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