龍に乗る観音像の意味とは?日本画と補陀落信仰に見る宗教的象徴

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日本画や仏画において「龍に乗る人物」が登場する構図を見たことはありませんか?

それは単なるファンタジーの絵ではなく深い宗教的背景=「補陀落信仰(ふだらくしんこう)」に由来する重要なテーマです。

この記事では補陀落信仰の概要と、それがどのように日本画の中で視覚化されてきたかを解説します。

時間がなかったので少しづつ加筆します。

目次

補陀落信仰とは何か?

  • 「補陀落」とは:観音菩薩が住む南方の浄土(=補陀落山)
  • 中国・日本に伝わるうちに観音信仰と合流し、「龍神による渡海」や「霊山信仰」と融合
  • 特に中世~近世にかけて、補陀落渡海の儀式(いけにえ的な出航)や芸術表現として昇華

補陀落信仰は、観音菩薩が住むとされる浄土「補陀落山(ふだらくせん)」を目指す信仰形態で、特に平安時代以降の日本で盛んに信仰されました。

※サンスクリット語の 「Potalaka(ポータラカ)」からきて「補陀落」となります。

南方にあるとされるその聖地へ船で渡る「補陀落渡海」は、現世を離れ観音浄土に生まれ変わるための行為とされていました。

日本での補陀落信仰の展開

◉日本における受容

補陀落信仰は、遣唐使や唐僧の影響で平安時代から日本に伝来。

特に 熊野三山(熊野本宮・那智・速玉)と深く結びつき、「熊野は現世の補陀落」とされました。

南方の彼方にある聖地、菩薩さまが龍の乗って海を越えて救いを与えてくれるという考え方なので地続きの熊野三山が補陀落とされるのはおかしく感じます。

しかし現代においてもかなりの山奥で僻地と感じてしまう熊野三山は交通手段が限られていた時代においては、もはや違う世界とすら感じるほど遠く感じたのではないでしょうか。

つまり「南方の彼方の海」を「人知の及ばない隔絶した場所」と考えるのであれば、それほど齟齬を感じることもなく、受容される中での変化として妥当な気がします。

◉補陀落渡海(ふだらくとかい)

中世には、観音の浄土・補陀落山へ海を渡って行こうとする宗教行が生まれます。

和歌山県の那智勝浦から出発する「渡海船」に乗り、戻らぬ旅に出る修行者たちがいたと伝わります。

実際には片道で戻れない(死を前提とした)旅であり、一種の殉教的・他界観的信仰とされています。

ジブリアニメの「平成狸合戦ぽんぽこ」のラストで狸たちが船に乗って船出する時に流れるナレーションはこの補陀落渡海が元ネタかなと考えています。

この信仰では観音菩薩は船に乗り、あるいは龍にまたがって人々を救済するとされ、その姿は絵巻や仏画に多く描かれてきました。

曽我蕭白の「群仙図屏風」では仙人が龍に乗っていますが、これは中華的思想の影響を受けての構図なので補陀落信仰とはちょっと違うと考えていますが、曽我蕭白は江戸時代の人なのですでに補陀落信仰が日本に伝播しています。

日本の宗教観に溶け込み受容する中で何かしらの影響を与えたのかもしれません。。

龍に乗る観音や仙人の意味

  • 龍は「水」「雲」「天と地の橋渡し」の象徴
  • 仙人:自然と一体化し、不老不死を求めた理想像
  • 観音:補陀落より龍に乗って人間界へ降臨すると信じられた
    → よって「龍に乗る観音像」は観音が現世に現れる瞬間を描いたもの
  • 仙人が龍に乗る構図は、人智を超えた力・天との交信の暗示←これは以前どこか美術系雑誌で見ましたが、ちょっとこじつけっぽいですね。

龍は古代中国では「天と地を行き来する霊獣」、日本においては「雨を司る神聖な存在」とされており、神仏や聖人を乗せるにふさわしい存在です。

とりわけ観音菩薩が龍に乗る姿は、「天より降臨し衆生を救う」姿として理想化されたものです。

また仙人が龍に乗る構図は、道教や日本の仙人思想と仏教的観念が融合したものと考えられ、天地を自在に行き来する超越者の象徴でもあります。

たくさんの仏様が空から降りてくる来迎図は彫金でもポピュラーなもので刀装具などに見られます。

来迎図で仏や観音様が乗っているのは基本的に雲なのですが龍に乗っているものも一定数あります。


第3章|日本画における「龍に乗る人物」の事例紹介

🖼 曾我蕭白《雲龍図》・《群仙図屏風》など

  • 激しい筆致の雲龍表現
  • 龍にまたがる人物や仙人の姿が幻想と信仰の境界線を描き出す

龍の絵は色々と好きなものがありますが曾我蕭白の龍は苔くさい匂いまで感じるような力強い表現が好きです。

今でいう「困り顔」をした龍が多く口元に非常に特徴があります。

海外の美術館に収蔵されているものもあり海外にもファンが多いようです。

曾我蕭白自身がかなりぶっ飛んだ人だったようなのでそのエピソード自体もオススメです。

🖼 橋本雅邦《龍神渡海図》

  • 神話的要素を日本画の技法で再構築
  • 補陀落信仰+吉祥思想を融合した作品

橋本雅邦は東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科の初代教授を務めた人なので、有名な横山大観の先生にあたります。

横山大観は「朦朧体」というはっきりとした線を引かない画風に至りましたが、一方で橋本雅邦ははっきりとした線を引いて描く画風です。いわゆる狩野派。

彫金の練習をするうえで言うと橋本雅邦の絵は勢いに任せて線が交差するような絵がないので彫りの練習に向いています。

それとどうでもいい感想ですが、ものすごくきれいな絵の中で橋本雅邦の描く龍はちょっと邪悪な顔をしており味があります。

おわりに

「龍に乗る人物」という幻想的な絵には、補陀落信仰という深い信仰的・哲学的背景があります。

日本画を鑑賞する際には、そうした意味を意識することで、より豊かな理解と感動が得られるでしょう。

また彫金に限りませんが絵を描く場合はモチーフの意味合いをかみ合わせて構成すると描く時のモチベーションになるのでお勧めです。

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この記事を書いた人

上谷 俊介のアバター 上谷 俊介 彫金師

彫金萬代表、彫金ブランド「IMULTA」を運営しています。

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