こんにちはIMULTA彫金師の上谷です。
独学で彫金を始めて15年たちまして現在はIMULTA(イムルタ)という自分のブランドを立ち上げて彫金師をやっています。
以前イベントでお客さんと話していて

彫金って独学で出来るの??
と色々聞かれたので彫金について、彫金を独学することについて書いていきます。
「彫金やってみようかな?」という方は是非一度読んでみてください。
※私は彫金教室をやってないので「ウチへどうぞ~」的な内容ではありません。
前半は初めて彫金を知る方に向けて「彫金とはなにか?」について書いているので、
独学するにはどうした良いか知りたい方はこちらをクリックすれば読み飛ばせます。
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【彫金とは?】彫金の歴史と独学でやることについて。
私は私自身が独学で彫金をやっているので独学賛成派ですし「みんなどんどんやったらいいのに^^」と思っていますが、今回は独学で学ぶことに関して色々と書いていきます。
まずは彫金とは何かについても説明します。
彫金とはなにか??
そもそも彫金とはなにか??
日本伝統の金属工芸には金属工芸には3つの技法があります。
- 彫金(ちょうきん)
- 鋳金(ちゅうきん)
- 鍛金(たんきん)
近年ではこの「彫金・鋳金・鍛金」の3つの技法を総称して「彫金」と呼称されることが多くなりました。
ではそれぞれについて解説していきましょう。
・彫金
この動画のように彫金とはタガネという金属用の彫刻刀と金槌を使って金属面に模様を彫りこんでいく技術です。(彫っているのは私です)
この動画はイベントで彫金の実演をしていた時の動画でお客さんが見やすいように平面の真鍮板に彫金加工していますが、普段お仕事で彫金しているものはほとんどが立体的な形のものです。
タガネの刃先の形によって色々な方法で金属を加工することが出来ます。
下の画像のようにジュエリーなどに宝石を留める「石留め」の技法も彫金の技術の一部です。

元はこれらの技術のみが「彫金」と呼ばれていました。
・鋳金(キャスト)
ワックスや金属造形で原型を作った後に鋳型(ゴム型が一般的)を取って、型に溶けた金属(シルバー、ゴールドなど)を流し込んで造形する技法。(ロストワックス製法)
ストリートファッション系のシルバーアクセサリーはほぼこの方法で作られており、立体的なジュエリーの製作や量産に向いている製作技法です。
鋳金という呼び方は伝統的なもので近年一般的には「キャスト」といいます。
ロストワックス製法で使用するワックスに関してはこちらの記事をご覧ください。
前半はワックスの種類やそれぞれの特性について、後半は最も初心者向けのリングの作り方を紹介しています。
・鍛金
金属を金槌で叩くことで曲げたり伸ばしたりして成形する方法です。
鍛金は特に専用の工具が必要になるので独学で行うのはかなり難しいですが、立体的なティアラを作る事もできます。

海外ではルプセと呼ばれていて、ルプセで作られている一番古いものは古代エジプトの兵士の兜が有名です。
加工する金属の厚みによっては非常に大きな音が出るので、騒音対策なしで自宅(集合住宅)で行うのは難しいと思います。
多分即日近所からクレームが来ます。
彫金の技法
前の項で「彫金・鋳金・鍛金」と大まかに紹介しましたが彫金の技法に関してもう少し細かく紹介します。
彫金は金属の表面にタガネを使って色々な模様を彫りこんでいく技法です。
それぞれ技法の名前がタガネの名前についているものもあります。
毛彫り
毛彫りタガネを使って彫る技法で、彫った跡がV字になります。(木工で例えると三角刀で彫った跡のようになります。)
名前の由来は毛のように細い線を彫ることが出来ることから毛彫り(けぼり)と呼ばれます。
あくまで線の細さは「どのぐらい深く彫るか」「どのぐらいの太さのタガネを使うか」によって違ってきますが、その細さを使い分けることで陰影を描いたり彫った絵の印象を操作することが可能な技法です。
また線を彫るという意味での毛彫りとはちょっと外れますが、毛彫りタガネを使う事で宝石を留めるための「爪」を建てることが出来るので石留めにも多用されます。
片切り彫り
片切りタガネを使って彫る技法で、彫った跡がカタカナのレの字になります。(刃の形は木工で例えると平刀と似た形になっています。)
- 文字を彫る
- 立体的な絵を彫る
- 伝統的な文様を彫る
- 金属の表面の凹凸をとる
簡単に書いただけでもこれだけの用途があり、一番応用して使います。
私が普段Tiktokなどで披露しているアニメキャラの彫金は毛彫りと片切り彫りで彫っています。
透かし彫り
透かし彫りは糸鋸を使って模様を切り抜いた後に模様を彫りこんでいく技法です。
ただ切り抜いただけでも透かし彫りと呼んでいる人もいます。
線彫りなどの「彫り跡をキレイに見せる」というよりも立体的な金属造形になり、仕上げ方によってはかなり華やかな印象になるのが特徴です。
細かい仕上がりまでこだわって作るとフィレンツェ彫りのようにゴージャス感たっぷりのものが作れる技法です。
蹴り彫り
タガネを蹴るように金属面に打ち付けて模様を入れる技法です。
最近いい包丁を買うとお店で「銘切り」のサービスをやってもらえます。あれが蹴り彫り。
三角形が連続して繋がって模様になる技法です。
立体的に金属板を打ち出す前に表面から線になるように蹴り彫りをする場合もあります。
魚子打ち(ナナコうち)
魚子タガネを使って丸を打っていく技法。
指輪の縁に打って装飾したり模様周りを荒らすために使ったりと色々な使い方をします。
正確に打っていくのは非常に神経を使う作業なので時間がかかります。
高彫り
模様を彫った跡に模様周りの金属面を一段低く彫り落として物理的に立体的に見せる技法。
平面に彫る鋤彫り(すきほり)という技法とセットになって使われます。
どえらい時間がかかるので超大変です。
一般的な金工で使用する彫金工具
そのほか糸鋸で地金(シルバーなどの銀板)を切るために糸鋸を使うなどの工程も含まれます。

画像に写っている工具は
- 糸鋸
- カニコンパス
- スプリングコンパス
- ヤットコ
- 成形プライヤー
金工をする場合は彫金を施す前に銀板を切り出す作業などが必要になるのでこれらの彫金工具が必要になります。
彫金の歴史
もともとは金属に模様を彫りこむ技法のみが「彫金」と呼ばれてました。
その技法自体は古墳時代から存在して文字が象嵌された刀剣が最古のものとされており、大陸の工人(職人・技術者)から伝わったと言われています。
古来より宗教的な物(仏具)や仏像、寺社仏閣の装飾に使われており鎌倉時代の武士の台頭を背景に鎧兜の装飾などで文化的成長を遂げ、室町時代の後藤祐乗によって彫金技法の基礎が築かれたと考えられています。
この後、江戸時代に後藤家の彫金は「御家彫り」と呼ばれるようになります。
後藤家は豊臣家の大判や江戸幕府の小判の製造を任されていた家です。
以前NHKで放送された「家康、江戸を建てる」の3話目「金貨の町」で後藤家5代目の後藤徳乗を吉田鋼太郎さんが演じられていました。
※NHKオンデマンドで見れます。(有料)
後藤家の弟子のひとりであった横谷宗珉が「町彫り」を確立し、キセルなどに広く用いられるようになりました。
明治時代の廃刀令以降は刀の所持が禁止されたので彫金師が一気に減ったそうで現代では先述した仏具などの他、宝飾品にその技術が使われています。
彫金を独学するとは
最近はイベントで彫金の実演をしている時に
「彫金を教えてほしい。」
「独学でできますか?」
と言われることが多いです。
「彫金を教えてほしい。」に関して
これはブログで練習方法を書いていますので過去の投稿を参考に練習してみてください^^
残念ながら彫金教室を開く予定はありません。
ただ模様を彫る彫金に関していえば
【ただただ地味な反復練習と、どう彫ったらどう光るかの検証】
これを延々と繰り返せばうまくなります。
よく秘訣を教えろと連呼してくる人がいますが、彫りに関しては基本が出来ていることが大前提になるので知識があるからといって出来るようになるものではありません。
こちらの記事から彫金の練習方法について読むことが出来ます。
「彫金は独学でできますか?」に関して色々含めた難易度
独学でできるかどうかで言うと「できます。」
下のゴルフクラブの画像のように実際に独学で勉強してきた私が仕事として彫金をやっているので「出来る」というのは断言できます。

実演中にお客さんとしゃべりながら彫る事もあるので簡単そうに見えているようなんですが、
初めはまともに線を彫ることもできませんし、せっかく買ったタガネの刃がパキパキ欠けます。

現在の私はタガネが欠けさせる事はまずありませんが、最初はみんなタガネの刃が頻繁に欠けます。
今の私が彫っていてタガネの刃が欠けないのは、
どの素材の彫金タガネをどのように整えて(金属の素材、焼き入れ、研ぎなど)、
彫る対象の金属をどのように処理(熱処理、固定など)するかわかっているからであって、
彫金を始めたころは私もタガネの刃をパキパキ欠けさせていました。
しかも彫金の独学を始めた頃はタガネを満足に研げなかったのでいちいち新しい彫金タガネを買ってました。
自分で満足にタガネを研げるようになるまで100本以上は市販のタガネを買っているので、独学でやる方はそれぐらい自分で買う可能性があるという事を覚悟した方がいいです。
※ちなみに自分のオリジナルの形のタガネを作る必要が仕事によって出てくるので、
研ぐ用のタガネは今でも定期的に買っています。
↑これが一から自分で作る用のタガネです、削ったり研いだりしないとタダの金属の棒。
彫金タガネの研ぎ方については下の記事で紹介しています。
ただタガネを研ぐのは非常に時間がかかるので趣味レベルであれば市販のものを買う事をオススメします。
独学で彫金をやる時のハードル。

独学で彫金をやるにはいくつかハードルがあります。
彫金を独学でやるハードルその1、工具
最初のハードルとして、彫金は始めるにあたって用意する工具がたくさん必要です。
彫金教室に行けば月謝が必要な代わりに必要な道具と場所によっては高額な機械工具がそろってますが、独学の場合は必要な道具を全部買いそろえる必要があります。
模様を彫る彫金だけをやるにしても彫金台とか値段的に高いものが必要になるので、金銭的にハードルが高いです。
さらに言うと彫金の工具を使用する技術面・知識面で難易度が高いです。
昨今のハンドメイドブームで始める方が多いようですが普通に学問なので、自分の好きなように物を作れるようになるにはかなり勉強が必要になります。
彫金を独学でやるハードルその2、音やホコリなど部屋の問題
もしかしたら集合住宅に住んでいる方にはこちらの方がハードルが高いかもしれません。
彫金の作業は大きな音が鳴るものが色々とあります。
集合住宅の場合苦情が来る可能性があるので近隣への配慮が必要です。
それと機械工具のリューターを使用する場合作業中にかなりのホコリや金属粉が舞います。
防塵ボックスや、工房用の部屋を用意するなどしないと家全体がホコリまみれになるのでリビングで空いた時間に気楽にやるというのは現実的ではありません。
最近の彫金独学の追い風と向かい風
15年以上前に私は彫金の独学を始めました。
その頃とは彫金の独学事情が違うので最近の彫金独学に関しての追い風と向かい風に関して解説します。
彫金独学の追い風
たまにTwitterとかでつぶやいているんですが
私が独学を始めた当時もインターネットはありましたが彫金に関する情報なんて誰もあげてないのでもっぱら本でした。
最近はネットの発達でググったりYoutube見たりと彫金に関する調べ物が気軽にできるようになっています。
これは本当にすごいことで、本を読み漁ってた頃に比べたら本当に「時代が変わったな~。」って感じです。
ただ本にはお金を出す分ネットでは拾えない情報・知識が載っているので本を基本にして、YoutubeやInstagramで作業の動きを補完するのがいいと思います。
彫金の独学を始めたばかりの頃、「何が役に立つ情報かわからない…。」状態の私がどのように情報を集めていったかを紹介した記事です。彫金だけではなく、未知のジャンルを勉強する時にも役に立つ内容になっています。
彫金を独学する中で本当に役に立った、今現在も役に立つと断言できる技術書を紹介しています。
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実際に参考になる映像もありました。これが追い風。
「彫金している手元を見る。」なんて私が彫金を始めた当時は全く出来なかったのでYOUTUBEで気軽に検索できるのはすごいことです。
上でYOUTUBE動画を参考に練習を繰り返すと下の動画のような簡単な絵を彫れる様になります。
※音が出ます。※
鬼滅の刃の蟲柱:胡蝶しのぶさんを彫ってみました。
最近鬼滅の刃のキャラクターを息抜きで彫っています^^
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彫金独学の向かい風
ただ残念ながら逆に彫金に関してトンチンカンなことを広めている人もいます。
例えば「ロウ付け」という彫金をやるなら超重要な基本工程がありますが「とにかく強い火力で熱すれば出来ます!!」というのは完全な間違いです。
ロウ付けの基本
・ロウ付けする面をちゃんと合わせる。
ロウ付けするモノ同士の面があっていないとロウが流れない、または流れてもちゃんと付きません。
・フラックスという薬剤をちゃんと使う
このフラックスという薬剤はロウ材の酸化を防ぎ流れやすさを高めてくれます。
ロウ付けする者同士の隙間に銀ロウが流れてロウ付けできるのでこの薬剤を使わないという事はあり得ません。
※フラックスとロウ材を使わない「とも付け」という方法がありますが今回は省きます。
フラックスはロウ材(アルミロウ、銅ロウ、真鍮ロウ、銀ロウ、金ロウ、プラチナロウ)でも火を当てる前に使うものなのでちゃんとトロトロの状態で保管するなどかなり重要。
ちなみに私がメインで使っているのは銀ロウです。

↑このフラックスは保管用。粉末状のやつを一回水に溶かしてから煮込んで、下にたまってるみたいにドロドロの状態にしてからもう一回水を足します。
勝手に分離するので、使う分だけ小さい入れ物にドロドロを取って上澄みの溶液を足して濃さを調整して使います。
このフラックスのトロトロ具合をちゃんと管理できないとロウ付けできません。
ちなみに最初からペースト状になっているフラックスもあります。
私は自分で効果を調整して使いたい人なので粉の状態から煮込んで使っています。
・十分な量のロウを使う。
ケチるぐらいなら大目に使った方がいいです。少なめにするのは最低限出来るようになってから。
・ガスバーナーの空気量を調整する。
空気とガスでシュゴーっと火が出るブローバーナーとガスでぼわーっと火が出るブンゼンバーナーの使い分けが大事です。
・ロウ付けする金属の温まりやすさを把握する。
私がメインで使っている銀ロウは異素材(真鍮と銀など)をロウ付けできます。
火を当てた時の温度の上がり方と融点が真鍮と銀で違うので火の当て方が重要になります。
・酸洗いする
ロウ付けした後の金属は熱い状態ですぐに希硫酸またはディクセルの溶液に入れてフラックスを取ります。
これは「酸洗い」というちゃんと名前がついた工程です。
熱してこびりついているフラックスはガラスのような状態になっているのでお湯につけた程度ではなかなか取れません。お湯につけても金属ブラシなどでガシガシやらないととれません。
ちなみに水溶性のフラックスと言うのは「はんだ付け用」のもので存在しますが、耐久温度が違うのでロウ付けでは使えません。
上で紹介した希硫酸は使用するうえで少し危険性があるので
安全性の高いディクセル(商品名:ピックリングコンパウンド)と言うものを溶かした溶液を使うんですけど、
ロウ付け後のフラックスがお湯とか水で溶けるならみんな希硫酸やらディクセル買わないでしょ。
上記のようにロウ付けに関して簡単に書きましたが、初めて知る方には何のことやらと言った感じだと思います。
今から始める方にはネット記事の真贋を見分けるのが難しいのが向かい風です。

金属の加工方法は色々あるので案内が難しいですが、一つ加工という事でこういった記事があります。レティキュレーションという加熱によって金属面をシワのように荒らす加工方法を紹介しています。
私は模様を彫る彫金以外の作業も楽しいと思えたので続けてきましたが、周りのハンドメイドブームと同じ感覚で彫金を独学でやるのは難しいと思います。
こういう時に彫金教室やってたら「ウチにどうぞ^^!」と言えるんですが、彫金教室をやるつもりはありません。
ちょっと嫌な内容になってしまった部分もありますが特にロウ付けは簡単に火事になる程度の火力のガスバーナーを使います。
なんとなくでやると本当に火事になって最悪自分以外の人の命も危険にさらします。
どんどんやったらいいのにとは思いますが安全には気を付けてくださいね^^
彫金だけでなくハンドメイド初心者がやりがちだけどやってはいけないことをまとめました。
【彫金とは?】彫金の歴史と独学でやることについて。まとめ
彫金を独学でやるのは知識面・金銭面でハードルがとても高いです。
ちゃんと防火対策をしないでやると火事になる可能性があります。
気軽に始めたいのであれば彫金教室を探していきましょう。
IMULTAでは現在は彫金教室を開く予定はありません^^
IMULTA(@imulta_jewelry)でした。
コメント
コメント一覧 (1件)
金﨑一人…入れ墨手彫り機械彫りを独学でしています。偶然ですね私は金崎の金をとり彫金と名乗っています。
機会があれば、お店に伺います。